2026年06月25日(木)

コラム・エッセイ

(59)花冷え

再々周南新百景 佐森芳夫(画家)

 「花冷え」という言葉がある。その意味は、あえて言うまでもなく、桜の花が咲くころの冷え込みのことである。「寒の戻り」という言葉もあるが、「寒の戻り」は二十四節気の立春を過ぎてからの寒さのことをいう。

 気象庁の標本木がある下関の桜の開花日は、3月26日であった。3月に夏日があったことから、そのまま一気に満開をむかえ、短期間で花見の期間が終わるものと思われたが、開花後から「花冷え」の日が長く続いた。

 さらに激しい風や雨に襲われることもなく穏やかな天候が続いたため、今までの記憶に残っていないほどの長い期間にわたって、桜の花を楽しむことができた。今後、これほどの条件がそろうことは少ないに違いない。

 人のいない場所で一人静かに桜の花を見るのも良いが、多くの人が集まる場所でにぎやかに桜の花を見るのも非常に良い。どちらも良いと言えるが、どちらが良いと言えないところに、桜の花の魅力があるのだろう。

 絶好の時期に周南市内を歩いてみた。代々木公園を出て、桜馬場通の徳山小学校横から「緑と文化のプロムナード」と呼ばれる桜のトンネルに入る。そして、周南市文化会館を通り周南市徳山動物園にたどり着いた。

 平日にもかかわらず、いつもより多くの人が花を楽しみながら歩いていた。自動車も、普段では見られないほどの遅い速度で走っていた。満開の桜の花が、急ぐことの意味をやさしく問いかけているような気がした。

 久しぶりに歩いてみると、所々に伐採した切り株が見受けられるなど桜の木の老木化が進んでいることを知らされた。残念ながら、花の勢いにも衰えを感じた。景観を維持することが、難しくなっているのであろう。

 この日の終点にした動物園南園の前にある第2駐車場には、たった一本の桜の木がある。満開の花を咲かせているが、最近、改修を終えたばかりの真新しい蒸気機関車とは異なり、すでに満身創痍の老木状態である。

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