2026年10月23日(金)

コラム・エッセイ

(89)俊寛堂

再々周南新百景 佐森芳夫(画家)

 硫黄島港のそばに、俊寛(しゅんかん)の像が建てられている。海にむかって力強く右手を突き出したその姿は、胸に迫ってくるものがある。そこに、俊寛がたどったであろう生き方が凝縮されているからであろう。

 その像の台座には、俊寛がこの島に来るに至った経過やその結末、そして、この像を建立した理由などが刻まれている。その中では、島の人たちが俊寛の死を哀れみ、庵の跡に俊寛堂を建てたことを知ることができる。

 俊寛の生き様は、島の人たち以外にも、多くの人たちに哀れみと感動を与えた。それは、近松門左衛門が平家物語を下敷きにして創り出した「平家女護島(へいけにょごのしま)」によるところが大きいと思われる。

 平家女護島が平家物語と大きく違うのは、海女の千鳥が出てくるところであろうか。五段目まである中で、見どころとなる二段目の「鬼界ヶ島の段」に登場する海女の千鳥は、以降も重要な役割を果たすことになる。

 平家女護島は歌舞伎としては最高の作品であるが、平家伝説を訪ねる時においてはその内容が少しばかり重荷になる。平家伝説のすべてが真実であると思っているわけではないが、それでも、伝説に直接触れてみたい。

 露命(ろめい)をつないだとされる庵の跡を訪ねてみた。竹やぶの中に続く苔むした迷路のような道を、進んで行く。笹に覆われているのでどこを歩いているのかが分かない不安を抜けると、目の前に俊寛堂が現れる。

 竹などの自然素材で作られているかのような小さな堂は、外観を保護するために作られた鞘堂(さやどう)であろうか。俊寛堂は、その中にあるはずであるが、どうしても神聖な鞘堂の中を見ることができなかった。

 俊寛堂からの帰り道、偶然、一匹のヘビに出会った。一メートルを超えるほどの大きなヘビは、動くことなく道路に横たわっていた。それは、まるで「まだ帰るな、ゆっくりしてゆけ」と言っているかのようであった。

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