コラム・エッセイ
春眠暁を覚えず
ちょこっと豆知識 立入塾「春眠暁を覚えず」と言いますが、これは私が学生だった昔の話、季節も後期試験真っただ中の初秋の出来事でした。
その日の試験は特に難しいとうわさの教授の科目。試験開始時間ちょうどに教室に現れた教授は、まず解答用紙として白紙のコピー用紙(当時、わら半紙と言っていました)を配ります。用紙を配り終え、教授が一言、黒板に「○○について述べよ」と書くと、90分間の試験はスタートします。
白紙の用紙に「○○について述べよ」とか「論ぜよ」と言った類の試験はそれほど珍しくはなかったのですが、この教授の授業は難しく、当然、試験の難易度も高いものでした。あらかじめ先輩たちに頼んで試験の傾向をレクチャーしてもらって試験に臨むのですが(見返りとして学食のAランチ)、先輩から「あの教授は覚悟してかかれよ」と散々脅かされていました。
試験は予想通りの難問題で、教室は文字を書きなぐる鉛筆の音や、「うん〜?」とうなる声などが微かに聞こえるだけで時間が過ぎて行きました。試験時間が後半にさしかかろうとした時、いきなりT君の「すみません、用紙もう1枚いただけますか」の声。「おっ」っと言う驚嘆の声と共に視線が一斉にT君に集まりました。そして教室内は何事もなかったかのように再び鉛筆を走らせる音だけが響き、試験の終了時間となりました。
試験終了後、「すごいな、あんな問題に2枚も書けるなんて」と羨望(せんぼう)と尊敬の言葉が彼に集まります。と言うのも、T君は学業に関してはかなり低空飛行で、ほとんどの教科が合格ギリギリといった感じでした。皆に囲まれたT君はバツが悪そうに「実は、ほとんど出来なくて途中で寝てしまった。気づいて目を覚ましたら、酷いよだれで用紙がびちょびちょになって破れてしまってて。仕方ないから別の用紙もらったんだ」と。
「さもありなん」と全員即納得。後日、掲示板に張り出された試験結果にはクラス全員の名前に合格の丸印がありました。
春のうたたねは本当に気持ちの良いものです。しかし時と場所には十分のご注意を。
