コラム・エッセイ
No.5 春の味
一喜一憂 藤屋侃士今年は例年より桜の開花が早いという。身の回りでも春の訪れを感じる。蕗のとう、蕗の若葉、みつ葉、菜の花といったこの季節にしか味わえないものを楽しむ。独特のほろ苦さは春の訪れを感じさせてくれる。
スーパーで買ってきた菜の花のつぼみが黄色くなってきたからと妻が花びんに生けていたら、見事に花が咲いた。思いがけず、家の中に春がやって来た。
庭のアーモンドの木にも、桜のような花が満開になった。退職の記念に植えて15年が過ぎるが、今年が最も美しく咲きほこっている。木々のことに詳しい知人が、正月のころの雪がアーモンドの木に良い刺激になったのだろうと言っていた。
1月に降った雪で、我が家のきんかんとゆずの実はしぼんでしまい、そのまま枯れてしまった。毎年、友人から甘夏をいただくのだが、今年の甘夏は雪のために、実の部分がスカスカになってしまった。甘夏は冷凍すると乾燥してパサパサになってしまうものらしい。
私が若かった頃には、冷凍みかんが駅の売店で売られていて、電車の供(とも)であった。みかんも冷凍すると乾燥してしまうのだが、この冷凍みかんは冷やしては水につけることを繰り返して、アイスキャンディのような食感に作り上げるそうだ。
この甘夏、実はパサパサしているが、皮にはつやがあって香りも良い。妻がマーマレードを作った。風味が良く、皮にはさわやかな苦味が残っていて美味しい。
甘夏をくださった友人にマーマレードをお返ししたら、喜んでくださり、さらに30個以上の甘夏が届いた。
甘夏10個に、砂糖が1キロ。大鍋いっぱいのマーマレードが次々にできあがってきている。
おすそわけした友人たちから、次々とお返しが届く。大根、ホウレン草、りんご、煮物などなど。我が家の食卓がにぎわっている。
近所づき合いが減った、人と人との交わりが少なくなったと言われて久しいが、幸いにも、多くの友人、知人に助けられて、日々の生活を送ることができるのはありがたい。
少し手間をかけて作ったものを喜んでもらえることは、作った者にとってもうれしいことだ。このマーマレード、ほろ苦さも味のうち。皮の厚さがバラバラなのも愛嬌。人と人をつないでくれた、今年の春の味である。
大量に届いた甘夏
美しく咲いた菜の花
どんどんできるマーマレード
