コラム・エッセイ
No.10 アーモンドの木
一喜一憂 藤屋侃士中東、パレスチナ地方で春の訪れを告げる花、それはアーモンドである。2月中旬頃に咲き始める。アーモンドの花は、日本の桜によく似ていて、葉が出る前に、一斉に花が咲き乱れる。
地中海性気候のパレスチナは、年間降水量が500ミリ程度で、山口県の約4分の1しかない。6月から9月にかけては雨が一滴も降らないのだが、冬が雨期で1月から2月は一定の降雨量がある。
アラビア語で「冬」は、「シターァ」と言うが、パレスチナ地方で使うシリア方言では「雨」のことも「シターァ」と言い、冬が雨期であることを表しているようである。
冬の雨期になると、褐色だったパレスチナの大地は、緑のじゅうたんで覆われる。そこで、アーモンドの花が桜のように咲くのだからとても美しい。
我が家にもアーモンドの木が1本ある。私の退職の記念に植えたものなので、すでに16年が経つ。花が咲くのは3月なのだが、今年はこれまでで、最もたくさんの花が咲いた。
花が終わると、若葉が勢いよく出てきて、枝がぐんぐん伸びる。今年は特に伸びがよくて隣家の屋根より高くなっていた。
緑色のアーモンドの実もついている。パレスチナでは、未成熟の緑色のアーモンドの実を、生で塩を少しつけて食べるそうだ。そういえば、フィリピンでは、まだ熟していない緑のマンゴーに塩をつけて酸味を和らげて食べるということを聞いたことがあった。同じような食べ方なのかもしれない。
アーモンドといえば、アメリカ。カリフォルニア産が有名だが、原産は中央アジア。そこから中東一帯に広がっていき、4千年以上にわたって人々に食されているという。旧約聖書にもアーモンドは出てくる。
日本には、明治時代にアーモンドが入ってきたそうだ。しかし、アーモンドの実が成熟していく時期が梅雨に重なる日本では、ナッツとしてのアーモンドが収穫できるまでには至らず、アーモンドの木が定着することはなかったようである。
我が家の緑色のアーモンドの実は、今年も成熟するころ落ちてしまうだろう。その地に合った植物ということを改めて感じさせられる。実は成らなくても我が家のアーモンドは特別な存在である。
花の時期には訪れた友人が「珍しい」「美しい」と写真を撮り、話に花が咲く。また、関わり続けているパレスチナのことを思い出させてくれる、そんな木でもある。
アーモンドの花(3月)
アーモンドの木(5月)
アーモンドの実
