2026年04月16日(木)

コラム・エッセイ

阿米の物語

翠流

▼江戸時代に周南市の徳山に住んでいた孝女阿米(およね=1791-1852)は6歳の時、母親が亡くなって母方の実家に引き取られていたが、父親が病気になったため、12歳で生家に戻り、働いて家計を支えながら看病を続けた、今でいうヤングケアラーだ。看病は父親が亡くなるまで31年間、42歳まで続いた。

▼現代社会では、ヤングケアラーの子どもたちが本来は大人がしなければならないことを担って家族を支えていることを周囲も学校もほとんど知らない。一方、阿米の行動は周囲の人たちだけでなく、徳山藩の武士や殿様にまで知られ、火事で焼け出されれば住居を世話してもらうなど周囲に支えられている。殿さまもほうびの米を阿米に与えたほどだ。

▼亡くなって8年後の1860年、桜田門外の変があった年に阿米を顕彰する碑が藩士によって建てられた。それから約40年後、明治になって、私立徳山女学校で教壇に立っていた若き日の与謝野鉄幹が阿米の伝記をまとめた。耐えるだけでなく、父に好きな酒を飲ませ、四国88カ所遍路や、父の墓の建立など願いを次々に実現していく姿が描かれ、たくましささえ感じる。伝記では阿米の孝行ぶり、勇気、忍耐をたたえ、見習うよう若者に呼び掛けている。

▼戦後の1956年に「阿米顕彰会」が発足し、家族に孝養を尽くす子どもたちの表彰が始まって間もなく70年。江戸時代、明治、昭和と語りつがれてきた阿米の物語。これからも伝え続けたい。

(延安弘行)

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