2024年12月12日(木)

コラム・エッセイ

平和へ、一歩ずつ

翠流

▼猛暑の中、広島平和記念資料館を訪れた。朝早くから国内外の入館者が行列になっていた。その中で、下松市出身の写真家、ジャーナリストの福島菊次郎さんの作品「N家の崩壊」を見た。被爆し、入退院を繰り返すNさんとその娘らの戦後を撮影。生き残っても続く悲劇を伝えている。

▼福島さんは2015年に94歳で亡くなったが、生前、周南市新堀の故吉原雍さんの「ギャラリー三匹の猫」で何度も個展を開いていた。福島さんが下松市出身であることや、周南市との関わりもやがて忘れさられていくかもしれないが、その作品は日本の歴史を語るうえで不可欠だ。これからも関心を集め続けるだろう。

▼光市文化センターでは「光海軍工廠関係資料群」が9月29日(日)まで展示されている。終戦の前日の米軍の爆撃で700人以上が犠牲になった光工廠の配置図や、戦後に市水道局が引き継いだ「海軍水道」の水道管、特攻兵器「回天」の頭部などがある。

▼パリ五輪が終わった。11日に閉会式でのIOCのバッハ会長の「五輪は平和をつくり出すことはできないが、平和の文化を生み出し世界を動かすことはできる」という言葉が印象的だった。国も人種も超えて対戦相手をたたえ、選手村で一緒に生活もした選手たちの姿が与えるものは小さくないと思えた。

▼福島さんの作品も、海軍工廠の遺品もパリ五輪さえ、世界からすぐに戦争をなくすことはできない。それでも、平和を求め続けることは大切だと感じた夏だった。

(延安弘行)

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